協会だより
協会だより④  ~美容医療の詐欺的行為について~ 日本医大名誉教授 スクエアクリニック院長 百束 比古 先生

百束先生はご存知の通り長年にわたる日本医科大学の重鎮であり、形成外科の名医としても著名な先生です。世界的に認められる「百束式」形成・美容外科手術を確立され、裁判事例の鑑定医や文科省の審査員としてもご活躍されておりました。

前号の白壁先生と同じく当協会の設立時理事であり、現在は監事として参画していただいております。特に、主に豊胸術など外科手術の後遺症に対して救済にあたり、加えて患者さんの心もケアしていくことをモットーとされているとお聞きしております。

百束先生のホームページを拝見しますと、医師としてのモラルを以て錚々たる後進を育ててきたことを強く感じました。

百束先生 公式ホームページ:https://hyakusok.net/


「美容医療の詐欺的行為について」

百束 比古

私は長いこと日本医大形成外科講座を主宰し、特に美容医療の後遺症患者を診療してきた。私の前教授文入正敏先生からの引継ぎで、とくに豊胸術術後障害の研究と救済に当たってきた。その経験から、美容医療における詐欺的手術誘導やぼったくり被害を多数見てきた。以下にその実態を羅列して警鐘を鳴らす。


1.注入された異物の有害性を煽って摘出を勧める。

これは鼻のフィラー注入後の患者に多いのだが、ネットで種々のフィラーが有害だとの記載があり、これを読んで美容外科機関を受診する場合に多い。固形のシリコンロッドなどであれば、全摘できるが、ジェル状のフィラー注入では、仮に残っていても全摘はできない。それなのに、全摘すると言って高額な手術料をとる。ひどい場合では、画像で見てもフィラーは吸収されて殆ど残存していないにも拘わらず、取った方が良いと言って、手術を勧めるが、実際には皮下組織の一部を取って、恰も異物を取ったように見せかける。すべてが詐欺的行為ではないが、目に余るケースもある。

2.破れていない乳房バッグインプラントを危険だからと煽って入れ替えさせる。

乳房インプラントの破潰は、マンモグラフィー、CT、MRIではわかるが、エコーでは判明が難しい。それを、エコーでインプラント外殻の折れ曲がりを指摘して、破れているから入れ替えよう、と言って高額な入れ替え手術を提案する、と言った行為を常習的に行っている施設がある。実際にセカンドオピニオンを求められ、画像検査を行うと単なるインプラント外殻の折れ曲がりでしかなかった、と言うケースが複数見られた。

3.乳房異物を全摘すると言って手術料を事前に取って、結局一部しか摘出しないで料金は返さない。

乳房異物の全摘はバッグプロテーゼでは可能であるが、注入されたシリコンジェルなどの注入法による物質では、異物肉芽腫の介在があり、全摘は不可能である。しかも、局所麻酔ではできない。それを、全摘あるいは大部分摘除するからと言って、高額な手術料金を事前に払わせて、結局一部しか取れなくても、料金は返還しない、と言う事例があった。

4.脂肪注入による豊胸術後にしこりが出来たことを訴えると、その摘出手術にさらに高額な手術料を取る。

そもそも自家脂肪による豊胸術は、一塊で注入すれば脂肪細胞は壊死に至って異物肉芽腫に変性あるいは取り囲まれ、シコリを形成するのは明らかである。これを、乳がんかもしれないから摘出して病理組織検査をしましょう、と言ってさらに高額な手術料金を取る、というケースがあった。

5.手術の結果に不満な患者の後始末を弁護士に丸投げする。

これはよくあるケースで、弁護士と言うと訴訟のやり方がわからない患者は尻込みするので、トラブルが回避できると考える医師や経営者がいるようである。しかし、医師の道義的責任から患者さんとは真摯に対峙すべきと思われる。

6.チェーン店型のクリニックで、患者が不満を訴えると施術医を移動させる。

手術の結果が不満で、クリニックを再診目的で訪れたら、施術医が遠方のクリニックに移動してもういません、と言われることがあるそうである。トラブルの多い医師をあちこちに移動して、責任逃れを図るのは全国にクリニックを有するチェーン店型の美容外科の常套手段のようである。

7.脂肪には幹細胞が含まれると言って、再生医療を語って脂肪注入を行う。

脂肪細胞から幹細胞を抽出したのは、Hedrickのグループであり、私の弟子のひとりである現順天堂大学医学部形成外科教授の水野博司医師も共同研究者である。であるから、私は只の脂肪移植が再生医療であるなどの詭弁は許容できない。

8.成長因子の注入後脂肪増生やシコリが形成されても、解決法を示さず、高額料金も返還しない。

大体が、コラーゲン増生目的でPRPと共に成長因子を顔面皮下に注入するようであるが、しばしば脂肪の過剰増生やシコリを形成する。一過性の場合もあれば半永久的なものもある。その結果に不満足で精神的にダメージを負うケースもあるが、施術医は経過を見る、の一点張りのようである。私が裁判の意見書を書いた例もあるが、要するに成長因子の市販されているものには、注入は禁忌とされているのである。その理由は、成長因子は癌などの悪性細胞を増殖させるからである。皮下に生じ得る癌はかなりあるので、禁忌の文言も理解できる。


編集後記:今回は少しインパクトが強い内容ではありますが、長年乳房の異物摘出にかかわってこられた百束先生しか書けないことであり、大変貴重な記事となりました。一部の美容外科医に対する道義的教育が必要である、と百束先生は強く訴えておられます。

(2023年7月18日配信)