
美容医療はトラブルが多いとよく世間一般には言われますが、本当にそうなのでしょうか。
そもそも自由診療であり「不急の医療」である美容医療を選択するのが患者さん自身であること自体、一般医療と異なる起点を有することから独特であると考えられます。
さらに一般医療と異なり、治療のゴールが「病気の軽減」や「病気の克服」ではなく、「見た目の変化」であり「QOLの向上」であるという点が重要です。
治療の結果も一般医療と異なり、「血圧などの数値が下がった」というような明確な基準ではなく、「見た目の変化」という曖昧な基準が落とし穴となり、結果的に「患者さんの主観やキャラによって評価が左右されやすい」という、非常に危うい要素を含んだ医療サービスでもあることは皆様も感じていることと思います。
美容医療のクレームと苦情の比率が大体2:8になる原因の大半は、このような問題に起因するといっても過言ではないでしょう。
明らかな医療過誤も一定量ありますが、丁寧なカウンセリングや必要十分なインフォームドコンセントにより医療者と患者さんとの信頼関係が構築されていて、さらに事故時の初期対応が万全であれば、ある程度の患者さんは納得して回復治療を続けるケースが多くみられます。
ここではそのような観点から、リスク・コントロールの中でも最も重要とされる「苦情クレーム対応体制の確立」についてフォーカスしたいと思います。
最近、会員の先生方から寄せられるよくある質問の一つが「クレームと苦情の違いは?」ということです。
「クレーム=苦情」と思っている先生も多いと思いますので、改めてクレームと苦情の違いを解説します。

クレーム(英: claim)は、原義では単に「要求」やその要求の正当性を主張することである(例:en:baggage claim)。
日本での意味は苦情(くじょう)を和製英語であるが、他の意味では契約違反における損害賠償に関しても同語が用いられる。
日本語ではクレームは、しばしばごり押しによる不当な強迫行為と混同されるケースも見られる。
(『ウィキペディア(Wikipedia)』より)
●苦情は「患者さんの意見」、クレームではない
「苦情」とは不満や不公平に対し改善を要求する行為であり、いわば「患者さんの意見」とも言われます。
この場合は法的損害賠償責任が無い(無責)と判断されます。
具体的なケースとしては、下記のように分類されます。
①不出来 (医師と患者の主観的相違・責任は無いが何らかの和解が必要)
②根拠のない言いがかり、難癖 (何らかの意図・悪意・不当要求・精神的疾患あり・常習犯(クレーマー))
●クレームは「単なる認識の相違」ではない
「クレーム」とはケガや被害を受けたことに対し、代償や補償を要求する行為であり、「単なる認識の相違」では済まされず法的損害賠償責任があると判断されます。
これを当協会では「有責の事故(狭義のクレーム)」と呼んでいます。
具体的なケースとしては、下記のように分類されます。
① 技術的医療過誤(医師・補助者の技術的ミス)
② 業務的医療過誤(インフォームド・コンセントの不備・重要事項説明不足もしくは違反・嘘偽説明もしくは誇大説明)
●苦情かクレームかの判定は難しい
トラブル発生時にはっきりと「苦情」と「クレーム」に仕訳することは大変難しく、いずれも合法と違法の境界上にあるケースが多くみられます。
また最近では、口頭での説明事項に対して故意に誤認をした上で、後々誤認である事(「聞いていない、知らなかった」)を強調する手口がよく報告されています。

「美容医療はサービスとしての側面もあるのだから、もっと良くしてもらっても良いはずだ」
そんな考え方を持つ患者さんも多く、高い費用を払うことから権利意識も強まり、乱暴な言葉づかいで過剰なサービスを要求してくることも珍しくありません。
気が付いたら患者さんの言いなりになっていて、毎日メールや電話が来てどうにもならない。
そんな時こそ一人で悩まず当協会にご相談ください。
当協会では会員様からの要請を受けた際、美容医療に精通したベテラン医師十数名と弁護士、保険会社の担当者や保険会社側の弁護士が、会員様から提供された資料を基に医療過誤審査を行い、可能な限り公正な医療過誤かそうでないかの意見をセカンドオピニオンとして提供いたします。
この審査によって医療側の不安がいち早く解消されることも多く、特に美容医療を始めたばかりの先生たちにはご好評いただいております。

近年の傾向では、医療過誤と判断される事案の何倍もの苦情が相次いで報告されています。
苦情の事案を俯瞰しておりますと、根本的な原因は「期待値以下の結果や対応に対して起こる患者様の主観的かつ感情的な訴え」であることが多く、それが形となって表面化し長期化するというパターンが見えてきます。
健康保険が効かない美容医療に対する患者様の期待は非常に大きく、費用も高額なので高級なサービスも費用の内と思っていることが多いのです。
そのような理由から、施術結果や対応に納得がいかない場合、患者さんの意識と感情には何かしら負のバイアスがかかってしまうようです。
「騙されたのではないか」「思っていたのと違う」
というような不安な気持ちに怒りが重なり、被害者意識を抱えて訴え出てくる患者さんは非常に厄介です。
このような負の意識を持って苦情を訴えてきた患者さんに対して、もし初期対応のミスが重なるとトラブルはさらに大きくなり、患者さんの被害意識と警戒心を増大させる結果となり、苦情をクレームとして主張する、いわゆる「クレーマー」を産む一因となります。
医療者側の対応によっては、警戒心が増大した患者との信頼関係は失なわれ、「クリニックには内密で弁護士に相談して訴える準備をしよう」と考える、いわゆるサイレントクレーマーと化すことも考えられます。
●トラブル発生時の初期対応について
有事には相手の不満や問題を大きくしないためにも、「その場限りの言い訳」や「逃げようとする態度」を見せず、毅然と対応する姿勢が不可欠です。
現場では無関係の受付スタッフさんが怒鳴られたり、被害者意識の高い患者さんから昼夜問わず脅迫めいたSNSが届いたり、冷静な判断をしにくい状況も多々あります。
厳しいことを言うようですが、恐い、と感じた時は恐いですと伝えて構わないのですが、それがなかなかできない。
何とか自分が食い止めようとして頑張るスタッフさんも多く、帰って傷を深める結果になることも多くあります。
結局、優秀なスタッフさんが心折れて辞めていってしまった、という残念なお話もよく聞きます。
当協会ではそのような事例を積み上げ、「苦情相談サービス」をご提供しています。
●苦情相談サービスについて
・当事者同士では感情論が先に立ってしまい、冷静なお話し合いができない。
・医療過誤なのか分からないので、診察を促しても無視されてしまってどうにもならない。
・毎日クリニックに電話がかかってきて電話回線を占有されるのが困る。
・他の病院に行って治療するので早く治療費を返して欲しい、今から取りに行くから用意して 等

このように、法的責任が釈然としない状態が長期化し、院内での解決が難しいと判断した場合は、無理をして解決しようとせず、患者さんとの交渉はせず、当協会事務局にご連絡いただく流れとなっております。
当協会のクレーム担当と共に対応することで、早急な解決が実現した例も多くあります。
患者さんがどうしても「当協会との話し合いはしたくない」と仰る場合はご相談の上、弁護士をご紹介することもあります。
苦情もクレームも一様ではなく、施術医の先生と患者様との認識のずれや感情的な温度差などが発生することも多々ありますので、相談されることは恥ずかしいことではありません。
近年の情報過多による思い込みの強い患者様や、確信犯のクレーマーも散見しますので「あれ?」っと思ったら、小さなサインを見逃してしまう前に是非ご相談ください。